音楽のこと
私はヒップホップ・ラップミュージックが好きである。そしてそれに付随するビートが一定の音楽(ジャズやファンク・ソウルミュージックなど)も好物であり、このいわゆる黒人音楽ジャンルに限らせてもらうと、素晴らしいものを聴いている時はまるで釈迦の手のひらの上でなめらかに転がされている気持になる。
もちろん現実における事象としては「音楽を自分で聴いていてその分時間が経っている」という事になるのだろう。しかしながら本当に至高の音楽体験のさいには、時間の感覚が脱落し、自分という存在さえも脱落し、「音楽そのもののみ」の世界と成る。人は年を重ねやがては死ぬ運命にある生物なのだからそれは幻想に違いないのだが、その「音楽のみ」という世界が立ち表される事は事実で、それがあるおかげで人間は辛い現状を乗り越えていける局面があるのではないか。
また、拍子の速度がはやくなったりおそくなったりを繰り返しがちな西洋音楽に比べて、ビートを一定に取る黒人音楽は、人が生きるうちの鼓動の源動力になる面があるように思う。恣意的にリズムが変わらないため、心身の安定につながる。これも科学的に証明されるものでないから一個人の感慨以上のものになっていないけれど、これまでの自身の人生を考え直した時、以上のように私は音楽に救われたとしか思えないのだ。
人が一生を終え身体は死体となる。それは確かなことだが、私にはこの宇宙から生の痕跡が消えてしまうとは信じられない。芸術家が死んだ場合には作品が残る。ただそうではない一般の庶民の場合においても、生の痕跡は振動として残るのではないか。もちろん本人として生き続けることは出来ないが、辛い最期であった者も幸せな最期であった者もそのように救われる気がする。音楽はその象徴としてあるのではないか。
0コメント