よく食う子規

 正岡子規『仰臥漫録』を読んでいる。今の読者からみると、死を目前にしている子規によって書かれたことになる本である。

 しかしながら、内容はいたってシンプルである。朝昼晩に何を食べたか。誰が訪れたか。どんな自然のうつりかわりがあったか。家族はどう振舞っているか。それだけである。子規は気難しい人であるから、それらへの感想は独断的ではあるが、死の迫る中でそれでも周りと交わろうとする姿は凄絶である。尊敬の念を禁じ得ない。

 そして、彼は死に向かう病のなかでも、よく物を食べる。一食に三杯も四杯も米・粥をおかわりすることはしょっちゅうだし、おかずの物にも色々うるさい。私は少々辟易していたが、読んでいるうちに子規の姿にこれまた尊敬を感ずるようになった。

 今の時代に、これほどまでに生命力太き人間はいないだろう。

 勿論、彼のような人間には周りの者は少なからず苦労する。しかし、(彼の日記だけでは証明できないが)子規の周りの家族、友達、弟子たちは強い生命力に触れ、彼らも力を貰っていたような気がするのは私だけだろうか。

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