坂口恭平のパステル画について

 大事な友達から画集を贈られた。坂口恭平によるパステル画をまとめた画集である。

 表紙を一目見ただけで、私は爽やかな気持を抱いた。林のなかの小道を丁寧に描写した絵である。しかしただの風景画ではない。そう思った。具象絵画として捉えるには、画家の景色に対する愛や思い入れが強すぎる、とでも言えようか。

 私は絵画の専門家ではないのでうかつなことは言えないけれど、坂口のパステル画には省略が過ぎるところがある。それは木の幹の描写などに如実にあらわれている。ところがそれが全く嫌みったらしくない。細分化された世界における凝りはひとまず惜いて、この自分自身が包まれている景色そのものを肯定しよう。私はページを手繰りながら、彼の絵はそのような情感をたたえているものとしか思えない。そうひしひしと感じ、心が落ち着いた。

 絵の構図や着想そのものは、一見印象派のようだ。つまり西洋絵画の系譜につらなるものだろう。しかし、絵一枚にじっくりと相対すると、そこに紛うかたなき日本の自然があることは疑えない。この感じ方は一人のただの感想に過ぎないけれど、そう感じ入ってしまうのは確かで、「ああ、この人も日本の自然や風物が好きなのだなあ」と共鳴する。

 坂口恭平の画業に出会わせてくれた友達には本当に感謝したい。

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