「おばけなんてないサ」
お化けに遭ったことがない。私の周りには様々いたし、今もいる。幼い頃実家に暗い人の形した影に親しんでいたり、霊感が強かったりする人間に出会うことが多い人生だった。話を聞く分には面白いのだが、いかんせん私は感じたことがないので、拝聴するだけで終わってしまう。
信じていないわけではないのである。子供の歌の文句のように「おばけなんてないサ」と言ってしまえるなら楽である。少なくとも未知なものに対する恐怖感は味わうことなく生きていけるだろう。人生自体はうすいものになるのかもしれないが、それはそれで一人の人間の生き方なのだから仕様がない。人様の人生に口を出す手はないのである。
お化けはいるのだろうか。私はわからないが、そういう話をする相手の顔は楽しそうだ。少なくとも恐怖で顔を歪ませているほどの人には、まだ私は会ったことがない。おそらくはお化けを信じた方が楽しく生きられるのかもしれない。
そう思い出したのはつい最近のことだ。ただ、その感じ方は気に入っている。人様に開陳するほどの理路ではないけれども、その裏で「お化けさん」が笑ったりしているのだとしたら、それはそれで愉快なことかもな、と感じるのである。
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