ガラスの靴で

 そんなことを覚えているとは思いもよらなかった。その「そんなこと」を、幼い頃の自分は覚えていることが多い。

 「ガラスの靴で 踊るミモザ」

 ボーカルグループ「ゴスペラーズ」の楽曲、「ミモザ」の一節である。ちょうど私が小学生の時に流れていた曲だ。なぜミモザの花が靴を履いて踊るのだろう。子供の私には不思議でならなかった。

 今なら分かる。この表現は詩歌の世界でいうところの一種の比喩表現で、「ミモザ」というのは黄色にひかりかがやく最愛の女性を例えたものなのだと。年を取ってしまった私には、この象徴としての表現もロマンティックに過ぎるように思われる。しかし、ゴスペラーズのこの曲を耳にするたびに、本当に「ガラスの靴で踊るミモザ」が眼前に立ちあらわれるのは確かである。歌が好きで良かった、とその都度私は思う。

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